Vol.1 語り手 小野寺奈津氏

アルバローザを巡るさまざまなこと

1 国立新美術館(2021年6月9日~9月6日)
「ファッション イン ジャパン 1945-2020 ―流行と社会」展に
アルバローザが展示された意味について

小野寺 奈津さん

 2022年に入った現在、戦後のファッションを見直す機運が盛り上がっている。そんな中、以前からアルバローザを知る人々に「アルバローザとはなんだったのか」「日本のファッション史の中のアルバローザとは」などをテーマにそれぞれの立場から見たアルバローザについてお話を伺うシリーズを開始する。

 1回目は2021年6月9日~9月6日に国立新美術館にて開催された「ファッション イン ジャパン 1945-2020 ―流行と社会」展の、90年代以降を担当した特定研究員の小野寺奈津さんに語っていただいた。

戦後70年を振り返る
時代性を帯びた日本のファッション史

 この展覧会は、戦後の日本のファッションを発信者であるデザイナーと受信者である消費者の双方向から、メディアでの扱われ方も参照しながら概観する内容で、好評のうちに幕を閉じた。

 小野寺さんにその当時の様子を振り返ってもらいながら、なぜアルバローザを展覧会で取り上げようと思ったのか、日本のファッション史の中でアルバローザはどのような位置づけと考えたのかなど、さまざまなお話を伺った。

90年代はストリートファッション全盛の時代
街で絶大な支持を集めたアルバローザ

 これまでのファッション史の展覧会は、世界的な日本人デザイナーの服を紹介するという切り口が多かったのですが、日本のストリートファッションが世界的に注目されているということもあって、そこに光が当たるような設定にしたかったのです。

 展覧会では戦後70年間を10年ごとに区切ってファッションの移り変わりを辿りました。その中で90年代以降を担当することになったのですが、80年代後半生まれの私は、当時まだ主体的にファッションを選択できるほど大人ではありませんでした。ただ、90年代は、ストリートから、多くの流行が生み出された時代というイメージはありました。当時、原宿では『FRUiTS』、『TUNE』、渋谷ではコギャル、ガングロ、ヤマンバといった目立った格好の人たちが注目を集めていたので、特徴的な街をいくつか取り上げ、ストリート発という部分に着目して作品を集めることにしました。アルバローザはガングロ、ヤマンバから絶大な支持を集めていたのでお声がけしたのです。ハイビスカスのロゴと代表的なスタイルのパレオ、彼女たちの憧れのブランケットコートは、ぜひ取り上げたいと考えました。

ファッションインジャパン1945-2020-流行と社会

青幻舎
「ファッション イン ジャパン1945-2020ー流行と社会」より転載

ファッションインジャパン1945-2020-流行と社会

初めてアルバローザの商品を
手に取ったときに感じたこと

 当初、私自身もアルバローザについてはギャル達の服というイメージを強く持っていましたが、事前のリサーチを進めていく中で「アルバローザはガングロブランドじゃなかった」というネットの記事を読んで、時間を経てそういう視点が出てきたのかなと思っていたのです。

 ですから、お話を伺った担当者が90年代後半からの雑誌やメディアが作った『渋谷ギャルのためのブランド』というイメージに対して、想像以上に嫌悪感を抱いているのには少し驚きました。ただ、ブランドが発信するスタイルを受け手がどのようにアレンジして着こなしていくかは、ストリートファッションの中で重要な動きだと思います。他のブランドと比べ、アルバローザはそのギャップが顕著なので、そこを伝えたいなと思ったのです。

 実際、アルバローザ社を訪問した際に初めて商品を手にし、ブランケットコートを試着して品質の高さを肌で感じましたし、手捺染のシルクスクリーンプリントや独自で素材を開発するなど、もの作りへのこだわりを知ったことで、「コギャル、ガングロ、ヤマンバ」というイメージを取り払い、服そのものにスポットを当て、その品質の高さを伝えることが重要だと考えるようになっていきました。また、オーシャンアスリートへの支援や、海のゴミ問題をはじめとする自然環境への取り組みを知り、一般的な街で着られているリゾートウエアのブランドとは違う点も伝えたいなと思いました。

 そこで、当初展示案として考えていたギャル向け雑誌の『egg』(大洋図書・当時)とブランケットコートとの並列展示を取りやめて、代わりに「ハイビスカス新聞」※の中の、コートを製作していた職人達の特集ページを開いて並べることにしたのです。

※ハイビスカス新聞
 ブランドイメージを伝えるスタイリングブックとは別に、アルバローザが考えていること、こだわり続けていることなどを文章で伝えたいという思いから作られた2001年発刊の新聞。
 直営店、FC店にて100円で販売し、その売り上げの一部を海洋環境保護のために寄付していた。

アルバローザの在庫を持たない考えが
より希少性を生み出した

 当時、渋谷に集うギャル達がアルバローザに熱狂したのは、ハイビスカスのロゴプリントがまるでルイ・ヴィトンのモノグラムのように遠目でもわかるため、同じ考えを持つ仲間を認識できたからだと思います。当時は雑誌が主なメディアで、スマホではなく携帯電話でしたから、すぐにSNSで自分を発信でき、趣味趣向が似ている仲間を見つけやすい現代とは違いますよね。

 また、ギャル達が好むブランドの中では高価格で高品質、ネット販売もしておらず、作っている数も少ないため希少性が高い。そのレア感が購買意欲をそそりブームとなったのだと思います。狙って希少性を高めたわけではなく、アルバローザ社の在庫を持たないという経営方針を追求した結果、という点は面白いなと思いました。

今後のアルバローザには
後世に残るアーカイブを残してほしい

 最後に、この展覧会を作るに当たって色々なブランドから商品をお借りしたかったのですが、皆さん思いのほか昔の商品を保管していない。かつて誰でも着ていた商品も、ブランドには残っていないものもありました。ですが、著名なデザイナーの作品ではなくても、時代を象徴するような商品が失われていくのは、ファッション史を振り返る上で大変残念なことです。その意味でもアルバローザには商品はもちろん、創業以来どのように商品を世に送り出してきたのか、製造過程や経営方針も含め、後世に伝えるアーカイブを残してほしいなと思っています。